秦郁彦先生と言えば慰安婦問題においての第一人者であり、誰もが一目置く存在です。朝日新聞も昨年8月6日検証記事で「朝日寄りではない有識者」として登場させざるを得なかった人物であり、第三者委員会のメンバー自体には(多分朝日にとってまずいので)入らなかったものの、同委員会がインタビューもしている人物です。そういう無視できない人物です。
その秦先生が元朝日新聞記者の植村隆氏とその大弁護団による訴訟乱発の動きに懸念を示されています。同様に感じている、また違和感を持つ日本人は多いわけですが、秦先生の視点を見てみましょう。私も同じ事を感じてきましたが私が重要だと思う部分を赤字にしています。
重要なポイントとしては、
1 捏造(ねつぞう)なのかどうか?
2 異様な大弁護団
3 植村氏への違法行為と被告とされた人達の言論での批判の因果関係の成立・証明は難しいのではないか?
4 今回の件が日本版スラップ(SLAPP=恫喝)訴訟禁止の動きにつながるか?
5 裁判所はどう動くか?
6 その前にこのような訴訟乱発的な動きに対して日弁連自体の自浄作用は無いのか?
というところでしょうか。 皆さんはどうお感じでしょうか?
(産経新聞)
http://www.sankei.com/affairs/news/150223/afr1502230004-n1.html
大弁護団抱える植村訴訟の争点 現代史家・秦郁彦
2014年から今年にかけてメディアに頻出した「捏造(ねつぞう)」が流行語大賞の候補に選ばれなかったのは、常用漢字にない難字と暗くどぎつい語感のせいかもしれない。ちなみに『広辞苑』第6版を引いてみると「事実でない事を事実のようにこしらえること」とある。 最近のトピックスでは「STAP細胞はES細胞を使って捏造されたもの」と報じられた小保方事件、「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」の見出しをつけた『週刊文春』(14年2月6日号)の記事と西岡力教授の関連コメント等が名誉毀損(きそん)に当たるとして、植村隆元記者が1月9日に起こした大がかりな民事訴訟が思い浮かぶ。大がかりなと形容したのは、原告は1人なのに代理人として170人の弁護士が全国からはせ参じたことを指す。
スラップ訴訟の成立基準
いずれも一過性の論争ではすまず、今後も尾を引きそうな気配だが、ここでは植村訴訟が提起したいくつかの問題点を取り上げてみたい。ひとつは受け手によって差がある語感の強弱をどう判断するかである。各種のメディア、時には国会の議場でも悪口雑言の類(たぐ)いは珍しくない。捏造記者と呼ばれるより三流(新聞)記者とか御用(新聞)記者のほうが、名誉毀損度は高いと感じる人もいよう。
たまたま夕刊を見ると、橋下徹大阪市長が京大教授とのやりとりで「バカな学者の典型」「この小チンピラ」と罵(ののし)っているのを知った。植村氏の訴状にも、被告・文藝春秋による「原告攻撃と“言論テロ”」「全体主義的言論封殺」と過激な表現が見られる。言論・表現の自由との兼ね合いもあり、裁判所は乱訴を防ぐためにも、憎まれ口の応酬レベルだと介入を嫌うかもしれない。
次には裁判所がまだわが国ではなじみの薄いスラップ訴訟(SLAPP)に該当すると見なし、反スラップ法制定も視野に入れた判例を出す可能性も予想される。この分野における先進国のアメリカでは、50州のうち約半数が反スラップ法を制定しているが、わが国では訳語も威圧訴訟、恫喝(どうかつ)訴訟などまちまちで、判例も乏しい。
デンバー大学のプリング、キャナンの両教授が挙げているスラップの成立基準は、(1)権力を発動する目的で巨大企業、政府、自治体等の強者が原告となり、弱者の個人や民間団体を被告として提訴(2)被告にコストを負わせやすい民事訴訟の形式(3)公益や社会的重要問題を争点に選ぶ(4)提訴者は敗訴を気にしない-とされている。
この基準が植村訴訟にあてはまるか検分したいが、その前に訴訟提起までの経過を要約しておく。
疑わしい相当因果関係
植村氏は13年11月に神戸の女子大教授に内定し、翌年3月に朝日を退職したが、『週刊文春』記事等を根拠に各方面からバッシングが始まり内定を取り消された。ついで本人、家族と非常勤講師を務めていた北星学園大学にも脅迫やいやがらせが繰り返される。
植村氏は中山武敏弁護士(のち弁護団長)の勧めもあり「原告とその家族をいわれのない人権侵害から救済し、保護する」には「“捏造記者”というレッテルを司法手続きを通して取り除くほかない」(訴状)と主張している。それに対し、被告側は「十分な根拠をもとに批判をした。言論には言論をもって対応すべき」だし、「脅迫を教唆するようなことは書いていない」と反論した。
確かに植村氏は訴訟までの約1年、被告ばかりか日本メディアの取材を拒否し、手記も公表していない代わり、米韓の新聞や外国特派員協会の会見には登場して、批判の対象にされた1991年の朝鮮人慰安婦第1号に関する記事の不備は誤用や混同で、意図的な捏造ではない、と釈明していた。
誤用か捏造かは裁判所の判断に属すが、いずれにせよ被告の言論活動と脅迫の間に相当因果関係が成立するかはきわめて疑わしい。
期待したい日弁連の自浄機能
それでも異例の大弁護団が乗り出した動機と目的は何なのか。真意は不明だが「その他の被告となり得る人々についても弁護団の弁護士が力を尽くし、順次訴えていく」(提訴時の記者会見における神原弁護士の発言)という宣言や「(170人が)ネット上で脅迫的書き込みをした人たちを探し出し、1人残らず提訴していく」(朝鮮日報)との報道ぶりから見当がつこうというもの。
実際に関係者の間では、次の被告は誰だろうと臆測が飛んだが、2月10日に札幌の弁護士が代理人で櫻井よしこ氏を札幌地裁に訴えた。こうなると金銭、時間、精神的負担を怖れる批判者への威嚇効果は絶大だろう。逆に弁護士を裁く法律はないから、対抗手段としては前記の基準(1)~(4)を満たしたかに思えるスラップ訴訟の適用しかあるまい。
それが無理なら裁判所は「訴権の濫用」も考慮するだろうが、その前に3万5千人の全員が加入する日本弁護士連合会(日弁連)の自浄機能に期待したい。(はた いくひこ)
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